「いつもと違うことをしようか、」
2003年12月7日『若葉のころ』(長野まゆみ著・集英社)
ようやく読むことができました。『白昼堂々』シリーズの第四作目、最終巻です。
基本的に長野さんの本はみな好きなのですが、なかでもこのシリーズは別格で。一作目を読んだときから続きを心待ちにしていただけに、感慨もひとしおです。(そのわりには読んだ時期がアレだということはいわない約束で!)
なんといっても、このシリーズは長野さん初の「現代版ホモ小説」なのです。こう書くと身も蓋もありませんが、ここは肛くらなので。
もともと少年愛テイストの強かった長野作品ですが、従来は近未来やファンタジー、あるいは夢と現実の境界線のあやうい空間のなかで描かれてきたため、現実味のない、あくまでも別世界の話という感じだったのに比べて、このシリーズの舞台は「現代」!
――いえ、正確には70年代位なのですが、それでも現実の日本を舞台としているだけに、ある意味リアルで生々しい、地に足のついたホモなのです。
ストーリーはというと、もともとそういうケのあった主人公の凛一くん(中学3年生・たぶん受)が、従姉と間違われてキスされちゃったのをきっかけに、二つ年上の氷川くんにぞっこん惚れてしまい、以来ずっとかれを追いかけて格式ある家柄もなんのその、とうとう京都の大学まで行っちゃった――というのを、集英社から単行本で出せるくらいに文学的に書いた話です。
ノスタルジー漂う70年代、しかも主人公が華道の宗家の生まれということもあって、作中には長野さんの持ち味の一つでもある、日本的な情緒や凛とした雰囲気がふんだんに盛り込まれていますが、なんといってもこのシリーズ最大の見どころは、主人公の凛一くんとかれを取りまく人間関係でしょう。
生まれつき病弱で、従姉とうり二つの容姿。制服を着ていないと女の子に間違われてしまう凛一くん。
アメフトの選手だけあり、男らしく凛々しい氷川くんに、ちょっと強引に口づけられて、すっかり参ってしまいますが、対する氷川くんはいたってノーマルな性癖の持ち主です。
以前は従姉と付き合っていたこともあるというかれに、いくら従姉似といっても、男の凛一くんが割りこむ余地はそうそうありません。
そのため、凛一くんはつねに一歩退いたところから、氷川くんのことを想いつづけます。自分の存在がかれの負担になるようであれば、すぐに身をひく覚悟です。
氷川くんの試合を観戦するために新聞部へ入部したり、氷川くんを追いかけて京都の大学を受験したり……かれにそういう性癖がないことも、彼女をつくったりしていることも承知のうえで、それでも追いつづけるのです。
ときには彼女やその周囲の人々から嫌がらせをうけたり、あるときなど、業を煮やした彼女が直談判に乗り込んできたことさえありますが(修羅場だ!)、それでも凛一くんはあきらめません。けっして自分の気持ちを強引に押しつけたりはしないものの、絶対にあきらめないのです。
ここまでくると、殊勝とか健気を通り越して怖ろしいものがありますね。なまじ静かなだけに、強い情念を感じます。
さすが、幼い頃に両親と死に別れ、由緒ある古い家で厳格な祖母と二人きり、抑圧されながら育てられただけのことはあるといったところでしょうか。
とはいえ、対する氷川くんもつわものです。
人によっては胃に穴が空きかねない状況にもかかわらず、かれは相変わらずのマイペース。凛一くんの気持ちを知りながらも、受け容れるでなく拒絶するでなく、のらりくらりとつかず離れずの関係を保ちつづけます。
かれにとって、同性だというだけでは拒絶の理由にならないのです。だから試しにキスしてみたり、ときには体に触れてみたり。
いわばヘビの生殺し状態です。凛一くんにとっても、いっそ拒絶されたほうが、思い切りがつくというものでしょう。
でもそれをやらない。(まあそれがかれの誠実さでもあるわけですが)
さすがアメフト部のエースだけあります。なにがあっても動じません。
その一方で、凛一くん自身の周囲も一筋縄ではいきません。
じつはかれも結構モテるのです。もっとも、かれの場合はほぼ男性からのみなのですが。
一本芯は通っていても、どこか危うさを感じさせるあたりが男心をそそるのでしょうか。凛一くんの周囲には、歳の近い叔父や年下の従弟、あるいは高校の上級生など、何人もの男性がいます。
兄のような存在である叔父や、反抗的な態度をとりながらも付き纏ってくる従弟、攻撃的で容赦のない態度を見せながらも、脆いところをみせる上級生……そんなかれらに、ときには縋りたいと思うことはあるものの、結局はだれのことも受け容れません。かれが本当に欲しいと思っているのは、氷川くんだけなのです。
(もっとも基本的に従順なかれは、脱げといわれれば脱ぐし、キスだってあっさりさせてしまうのですが)
――とこんな感じで、錯綜する人間模様と、そのなかでふてぶてしいまでのしたたかさでもって氷川くんへの愛をつらぬく凛一くんの姿を楽しむのが、このシリーズの(肛くら的な)味わいかたかと。
ようやく読むことができました。『白昼堂々』シリーズの第四作目、最終巻です。
基本的に長野さんの本はみな好きなのですが、なかでもこのシリーズは別格で。一作目を読んだときから続きを心待ちにしていただけに、感慨もひとしおです。(そのわりには読んだ時期がアレだということはいわない約束で!)
なんといっても、このシリーズは長野さん初の「現代版ホモ小説」なのです。こう書くと身も蓋もありませんが、ここは肛くらなので。
もともと少年愛テイストの強かった長野作品ですが、従来は近未来やファンタジー、あるいは夢と現実の境界線のあやうい空間のなかで描かれてきたため、現実味のない、あくまでも別世界の話という感じだったのに比べて、このシリーズの舞台は「現代」!
――いえ、正確には70年代位なのですが、それでも現実の日本を舞台としているだけに、ある意味リアルで生々しい、地に足のついたホモなのです。
ストーリーはというと、もともとそういうケのあった主人公の凛一くん(中学3年生・たぶん受)が、従姉と間違われてキスされちゃったのをきっかけに、二つ年上の氷川くんにぞっこん惚れてしまい、以来ずっとかれを追いかけて格式ある家柄もなんのその、とうとう京都の大学まで行っちゃった――というのを、集英社から単行本で出せるくらいに文学的に書いた話です。
ノスタルジー漂う70年代、しかも主人公が華道の宗家の生まれということもあって、作中には長野さんの持ち味の一つでもある、日本的な情緒や凛とした雰囲気がふんだんに盛り込まれていますが、なんといってもこのシリーズ最大の見どころは、主人公の凛一くんとかれを取りまく人間関係でしょう。
生まれつき病弱で、従姉とうり二つの容姿。制服を着ていないと女の子に間違われてしまう凛一くん。
アメフトの選手だけあり、男らしく凛々しい氷川くんに、ちょっと強引に口づけられて、すっかり参ってしまいますが、対する氷川くんはいたってノーマルな性癖の持ち主です。
以前は従姉と付き合っていたこともあるというかれに、いくら従姉似といっても、男の凛一くんが割りこむ余地はそうそうありません。
そのため、凛一くんはつねに一歩退いたところから、氷川くんのことを想いつづけます。自分の存在がかれの負担になるようであれば、すぐに身をひく覚悟です。
氷川くんの試合を観戦するために新聞部へ入部したり、氷川くんを追いかけて京都の大学を受験したり……かれにそういう性癖がないことも、彼女をつくったりしていることも承知のうえで、それでも追いつづけるのです。
ときには彼女やその周囲の人々から嫌がらせをうけたり、あるときなど、業を煮やした彼女が直談判に乗り込んできたことさえありますが(修羅場だ!)、それでも凛一くんはあきらめません。けっして自分の気持ちを強引に押しつけたりはしないものの、絶対にあきらめないのです。
ここまでくると、殊勝とか健気を通り越して怖ろしいものがありますね。なまじ静かなだけに、強い情念を感じます。
さすが、幼い頃に両親と死に別れ、由緒ある古い家で厳格な祖母と二人きり、抑圧されながら育てられただけのことはあるといったところでしょうか。
とはいえ、対する氷川くんもつわものです。
人によっては胃に穴が空きかねない状況にもかかわらず、かれは相変わらずのマイペース。凛一くんの気持ちを知りながらも、受け容れるでなく拒絶するでなく、のらりくらりとつかず離れずの関係を保ちつづけます。
かれにとって、同性だというだけでは拒絶の理由にならないのです。だから試しにキスしてみたり、ときには体に触れてみたり。
いわばヘビの生殺し状態です。凛一くんにとっても、いっそ拒絶されたほうが、思い切りがつくというものでしょう。
でもそれをやらない。(まあそれがかれの誠実さでもあるわけですが)
さすがアメフト部のエースだけあります。なにがあっても動じません。
その一方で、凛一くん自身の周囲も一筋縄ではいきません。
じつはかれも結構モテるのです。もっとも、かれの場合はほぼ男性からのみなのですが。
一本芯は通っていても、どこか危うさを感じさせるあたりが男心をそそるのでしょうか。凛一くんの周囲には、歳の近い叔父や年下の従弟、あるいは高校の上級生など、何人もの男性がいます。
兄のような存在である叔父や、反抗的な態度をとりながらも付き纏ってくる従弟、攻撃的で容赦のない態度を見せながらも、脆いところをみせる上級生……そんなかれらに、ときには縋りたいと思うことはあるものの、結局はだれのことも受け容れません。かれが本当に欲しいと思っているのは、氷川くんだけなのです。
(もっとも基本的に従順なかれは、脱げといわれれば脱ぐし、キスだってあっさりさせてしまうのですが)
――とこんな感じで、錯綜する人間模様と、そのなかでふてぶてしいまでのしたたかさでもって氷川くんへの愛をつらぬく凛一くんの姿を楽しむのが、このシリーズの(肛くら的な)味わいかたかと。
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