『あ〜ら わが殿!』(木原敏江作・秋田文庫)

今回は意表をついて古典に挑戦――と思いきや、わかるひとにはわかる……
この本、じつはかの名作『摩利と新吾』の前作にしてその原型のようなお話で、まりしん以下、持堂院のメンバーがかなり出てきているのです。(といってもわたし自身、まりしんは1巻しか読んだことがないのですが)
明治時代の旧制高校、なんて聞くだけでザーメンのかほりがしてきますよね。
とはいえ、この話の主人公は女の子。まりしんたちの学ぶ学校・持堂院のとなりにある、なでしこ女学院の生徒。ふだんはもっぱらホモ専のわたしとしては、暇つぶしのつもりで読みはじめたのですが、これが思いのほかおもしろい。
少しずつ読むはずが、一気に読んでしまいました。さすが古典です。大御所です。

ストーリーはというと、日本初の男女共学校をつくるためのテストケース生として、主人公が同級生や先輩とともに持堂院で生活することになるのですが、これがまたハチャメチャのドタバタコメディ。
なにしろ彼女たちは、男性上位の世の中において、これを機に女性優位を確立する(!)という重大な使命を帯びているのです。
2年生ばかりのメンバーの中、1年生の主人公が選ばれた理由というのが「剣道二段」、おなじく1年生の主人公の友人が選ばれた理由にしても、「男性にかけては天才的としかいいようのない手腕と関心をもっている」と理事長みずからがいってのけることからも、その意気ごみは察せられますね。
もはや、なにをしに学校へいくのかすらわかりません。

ところが、相手もつわもの。
まりしんをはじめとした、いずれもきらびやかにして個性的な面々を前に、あっというまに心を奪われた女生徒に対して、男子生徒がいったことはというと。
「女が男と同等になにかするという考えじたいゆるしがたい」
「へたに学問させると、女はなまいきになって手がつけられなくなるからな」
徹底的な男尊女卑のことばです。男子生徒にとっても、これは戦いだったのですね。

こうしてはじまった波乱の合同授業。
教室にはバリケードが築かれ、廊下は男女で離れて歩く。主人公は男子寮にスパイとして潜りこみ、女教師(美人!)は薙刀片手に救出に向かいます。
そして先生の美貌に悩殺されるA君(仮名)! そのA君にひそかに想いを寄せていた主人公とB君(仮名)! 主人公のことがすきだったC君(仮名)! 傷心のあまり他の女生徒に声をかけるB君(仮名)! 先生の恋人(じつは持堂院の生徒だった)は身を引こうとし、さらに全然関係のないところで、ラブレターを101通ももらっている主人公の友人(ラブの天才)!
ほかにも、学園祭の演目「椿姫」の準備を進めるかたわらで、ヘリオガバレス流のリンチ(薔薇の花の香りで窒息させる)が行われたり、なにかと美少年と絡むおいしい役どころの主人公(なにせ少女マンガなので)は嫉妬した友人や上級生によって吊るしあげをくらったりと、息もつかせぬ展開です。
やがてモロモロのことが明るみにでて、すわ破局かと思いきや、そこで登場するのがラブの天才。
いままで主人公にいじわるばかりしていたにもかかわらず、「やはり友だちの涙は見たくないのよね。まあかたいことはいわないで」とあっさり流して一気に解決。
さすがラブの天才……この切りかえの早さはおおいに見習いたいものです。

そんなラブの天才の働きあってか、さいごはみんなそれなりに幸せになって――というか、カップルが続出。先生なんて(生徒と)かけおちしていましたよ。うーん。
でもまあ、大団円ということで。仲良きことは美しきかな……

古典からは学ぶことが多いですね。

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