『千の花 真夜中を駆け抜ける2』(依田沙江美作・シャレードコミックス)

今日はマンガ本です。
これも1巻がでてから4年近くたっていたので一時はもうでないのかと危惧した本でしたが、昨年連載が再開して先日ついに2巻が発行。めでたく完結いたしました。
なのでコミックスの後半部分はすでに立ち読んでいたのですが、発売後すぐに意気揚々と購入してきました。わたしはホモマンガはそれほどたくさん読んではいませんが、これは別格ですきなマンガなのです。依田さんのマンガはわりとみんなすきですが、なかでもこのシリーズはおもしろい。

なんというか、仕事と恋愛のバランスがとてもいいのです。
攻は画家、受は編集者で、おたがい30をいくつか越えたくらい。仕事もそれなりに軌道にのって、やりたいことをやれたり責任ある仕事をまかされたりする、そういうなかで仕事や恋愛がらみの事件だ浮気だと、騒動や喧嘩がたえないわけですが、仕事と恋愛、どちらにも比重がかたよりすぎていないというか。
むしろその二つはたがいに無関係におそってくるのです。仕事が縦糸なら恋愛は横糸、それが相互にからまって、毎回いろいろなストーリーが展開されていく。といっても「仕事と恋愛の両立」がテーマみたいな話じゃなくて、ほらときどきあるじゃないですか。仕事がうまくいっていないときにひとりの男と出逢って、その男となんだかいい感じになるにつれて仕事のほうもいい感じになってきて、最後は仕事も恋愛も絶好調――というような話。わたしはそういうストーリーがどうにも苦手なのです。おまえら「進研ゼミ」のマンガか!という。これもわたしが就職しそびれてしまったせいでしょうか。あ、ここは笑うところですよ。

それはまあとにかくとしても、キレイでおとなしそうな外見に似合わずがさつで男らしくて、ときにはベッドのなかで攻を懐柔しちゃったりもするしたたかさを備えた受と、身長190センチのガタイの浮気性にもかかわらず家事が趣味でロマンチストなところがある攻の、シリアスになりきれないやりとりは見ているだけでおもしろい。
10代のころにつき合って別れたのが、10年以上たってからもう一度よりを戻した……という設定なのに「過去の確執」なんて暗くて重苦しい雰囲気はみじんもなくて、展開はあくまでもコメディなのです。攻が浮気騒動を起こすたび子供のように大声で怒鳴りあったり、かと思えばテレビや映画をみてふたりして泣いてみたり。たがいにあさっての方向をみているようでいても、結局は似たもの同士なのでしょうか。
登場人物の多さも魅力で、毎回それぞれ微妙にくせのあるわき役がとてもいい味をだしているのです。シリーズ最初のころは説明が十分でなくて一読しただけではつながりがよくわからないほどでしたが、そのいい意味でごちゃついた雰囲気が読んでいてとても楽しい。みんながそれぞれ、勝手なことをしているような。だからあちこちですれ違いやかん違いが起きてしまう。
けれど、たとえば攻の見合い現場に出くわしてしまって、仕事上ではぶしつけな電話がかかってきて、飼い猫は目のまえで死んでしまって、そんなときに偶然、攻がこっそり自分の絵を描いていたと知ったときの感情、それに生かされてきたと感じる瞬間、そういうごくありきたりで無秩序な日常のふとしたところで流れる空気が、とてもいいなあと思うのです。

作中では時が経つにつれてふたりの関係もかわってきて、攻の父親の死をきっかけにめずらしく緊迫感あふれる展開になったかと思うと、このふたり、知人の結婚式にかこつけて誓いのことばまで交わしてしまいました。
じつはわたし、このホモカップルの結婚うんぬんというのも苦手で、正直雑誌で読んだときには少々ひいてしまったのですが、今回コミックスの書き下ろし部分を読んだらふしぎにしっくりきました。
このふたりの話はもう少し読みたかった気もするのですが、なんにせよいいかたちでおわってよかったなあ、と。

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